読書ノート

読んでよかった本だけを取り上げて、要旨や感想をノートしているつもりですが、一言いちゃもんつける癖は抜けません。

2009-01-01から1年間の記事一覧

『脱ファスト風土宣言 商店街を救え』 三浦展 編著 2006

編著者の三浦展氏は前著で、日本中の地方都市のロードサイドに大型商業施設が立地し、本来固有の歴史と風土を持っていた地方の風土が全国一律の均質化なものになってしまった「国土の郊外化」のことを、「ファスト風土」と名づけて批判した。ネーミングだけ…

『オランダの持続可能な国土・都市づくり』 角橋徹也 2009

あとがきを見て著者が今年75歳のお年であることに驚く。64歳からオランダに留学して修士課程、帰国し神戸大学で博士課程を終えた後、70歳を過ぎて再度留学し、この本をまとめた。著者は大阪府職員として千里や泉北のニュータウン開発に従事した都市計画の実…

『環境を知るとはどういうことか―流域思考のすすめ』 養老孟司&岸由二 PHPサイエンスワールド

三浦半島にある面積72haの小さな、しかし源流から海までほぼ完璧な流域、小網代の谷が首都圏の近郊緑地保全区域の指定を受けた。本書は、小網代の保全や鶴見川の流域活動の中心人物である岸先生と養老先生の、小網代探検記と対談だ。 第一次首都圏整備計画(…

『消える日本の自然~写真が語る108スポットの現状』 鷲谷いづみ編 2008恒星社厚生閣

「美しい日本の自然」、「自然との共生」といった語句は、マスメディアにも政府の白書や計画にもやたら登場し、かえって何のインスピレーションも呼び起こさない空虚な言葉となってしまった。世界遺産ブームやビジット・ジャパンは、限られた場所だけに人々…

『農山村再生「限界集落」を超えて』 小田切徳美 2009 岩波ブックレット

1.農山村の空洞化とその新たな局面 1960年代に造語された「過疎」は人の空洞化を、80年代に生まれた「中山間地域」は土地の空洞化を表し、90年代に生まれた「限界集落」はむらの空洞化の延長線上に発生している。さらに、人々の地域に対する「誇りの空洞化」…

『東京 いい街、いい家に住もう』 織山和久2009

1.街選びで将来の暮らしが決まる 「将来の資産価値を考えると、伸びしろのある街を選ぶべき。高層マンション街区のような今以上に変わる余地に欠ける街や、木造密集地域のように伸びしろを生かしにくい街ではなく、少し前の中目黒のようにまとまった区画の工…

『都市鉄道と街づくり』 堀内重人2006

東南アジアを中心に、北米やオーストラリアも含め、軌道系都市交通の現状を説明するとともに、経営上の課題や設備の維持管理上の問題点を分析し、軌道系都市交通を有効に機能させるためのポイントをまとめている。 著者は「根っからの鉄道ファン」とのことだ…

『衰退を克服したアメリカ中小都市のまちづくり』服部圭郎

デービス(カリフォルニア州) デービス市は、カリフォルニア大学デービス校のある人口64,000人の小都市である。デービス市は総合計画で「ゆっくりと成長する」「中心市街地は歩行者優先とする」ことを明示し、都市計画はオリジナリティにあふれ、かつ斬新で…

『自治体倒産時代』 樺島秀吉 講談社+α新書

財政破綻した北海道夕張市のルポのほか、最近財政危機に陥った大阪府泉佐野市、長野県王滝村、福島県泉崎村、兵庫県篠山市などの財政悪化の要因を報告。炭鉱閉山の夕張以外の自治体は、特別に不利な条件にあったわけではないように私には思われるが、いずれ…

『消えた砂浜~九十九里浜五十年の変遷』 小関与四郎

つい30年ほど前まで、九十九里浜には人工的な構造物がほとんどなく、砂浜だけが広がっていたと記憶している。しかし、現在の九十九里浜は、護岸、ブロック、ヘッドランド、離岸堤など、コンクリートの構造物で覆われている。 本書は、懐かしいかつての砂浜と…

人口流動の地方再生学 松谷明彦

期待して読んだのだが、・・・ これまでの著作のような客観的な分析があまりなく、地方分散派の願望を述べた本になってしまっている。 そして、ツッコミを入れたくなる箇所が多い。 例えば、第1章で、明治から戦前にかけては「地方から流出した労働力が幅広…

『メガリージョンの攻防』  細川昌彦

1年前に出版された本。 リチャード・フロリダ、マイケル・ポーター、トーマス・フリードマン、大前研一などの意見を日本の地域政策に投影するとこういう本になるのだろう。 地球規模での地域間競争の時代が到来した今日、都道府県の壁を超えて広域的な地域…

Guanxi ビル・ゲイツ 北京に立つ

赤い装丁の中国本は、センセーショナルな中国脅威論かその反対の崩壊論が多いが、この本はそうではない。マイクロソフトがどのように中国の超一流の頭脳を集め、その才能を開花させていったかを、生き生きと描いている。 「優秀な人間を雇う決め手は給与だろ…

郊外の社会学 若林幹夫

第1章 虚構のような街多摩NTベルコリーヌ南大沢に代表される新しいタイプのニュータウンには、現実から浮いた感じの虚構性がある。都市空間のディズニーランド化が住宅地にまで浸透。第2章 この立場なき場所 金属バットから酒鬼薔薇まで 建築じゃない住宅第3…

地域産業に学べ 関満博

現場主義の経済学者関先生の本は、毎度のことながら、明るく、読者を元気にさせてくれる。しかし描かれている内容は深刻だ。 本書の前半は広州など中国の現地企業や進出した日本の中小企業のルポ。そのスピード、規模の大きさとダイナミックさには驚かされる…

失敗に学ぶ中心市街地活性化 英国のコンパクトなまちづくりと日本の先進事例 横森豊雄ほか

中心市街地に関する本は最近多数出版されているが、本書は、英国の失敗と成功の経験と、日本の5つの事例(長野、日向、青森、宮崎、柏)を、商業まちづくりを専門とする3人の著者の視点から詳述しているところに特徴がある。 80年代のサッチャー政権下の規制…

『日本の空を問う』 伊藤元重他

日本の航空産業は、戦略的産業観が欠如し、金融業と同じく市場経済のスピードを見誤った。 ?首都圏の空は、国際線を成田、国内線を羽田と分離したために、ネットワーク機能を損なっている。 ?成田、羽田の発着枠拡大や、関空、中部の余裕を踏まえ、日本もオ…

中心市街地の成功方程式 細野助博

「成功方程式」というインパクトのあるタイトルに、すぐ効くよく効く処方箋を期待してしまったが、そんな安直な本ではなかった。 中心市街地本には都市計画的アプローチと商業・流通的アプローチがあるが、本書は後者に属する。 本書は、市街地の公共性を問…

『地域は「自立」できるか』 奥野信宏

著者は公共経済学を専門とする著名な経済学者であるが、「市場原理主義」と言われがちな一般の経済学者とは違い、国土審議会の主要メンバーも務めるなど政策形成に参画し、また地方の実情を自らの目でよく見ている。本書の見解は、現実を踏まえたバランスの…

地価融解 太田康夫

バブル崩壊以後長期にわたって低迷した日本の不動産市場は、金融商品化(証券化)を通じて外資マネーの呼び込みに成功したことにより復活し、都心などではミニバブルと呼ばれる現象まで起きた。 しかし、不動産の金融商品化には落とし穴があった。ひとつは銀…

中国 静かなる革命 呉軍華

第2章 中産階層の台頭と民主化からの逃避 中国崩壊論は崩壊した。中国崩壊論は、天安門事件や旧ソ連・東欧の社会主義崩壊といった状況下で展開された。しかし、実際には旧ソ連・東欧諸国の激変は中国の民主化の反面教師的な役割を演じ、中国共産党への求心力…